「地下鉄サリン事件」
発生から今年で30年を迎えたこの事件
アラフォーより下の世代の人は、すでに教科書の中の出来事と捉えているかもしれない
「大化の改新」や「第2次世界大戦」と同じレベルで語られる歴史上の事件だと

だが、日本中を震撼させたテロは、今もなお被害者を苦しめている現実をご存知だろうか
しかも、事件を起こした宗教団体は、解散はしたものの新たな形で信者を増やしつつある
あの恐怖の事件は決して過去の話ではない
今なお続いている悪夢なのだ
当時を知らないZ世代には事件の全貌と教団の現在についてぜひ聞いてほしい
知らないままでいるとその悪夢に再び取り込まれるかもしれない
まず、「地下鉄サリン事件」とはどういうものだったのだろうか
1995年3月20日、東京の地下鉄、それも複数路線で猛毒の化学兵器『サリン』が一斉にばらまかれた

時刻は午前8時ごろ 朝の通勤ラッシュ時である
乗客は突然、目の痛みや呼吸困難を訴え、次々と倒れた
結果、14人が死亡し、約6300人が負傷
サリンは1滴で人を◯せるほどの毒性を持つ
普段の通勤や通学が一瞬で命を奪われる危機に変わってしまった
実行者は『オウム真理教』という宗教団体である
この事件は単なる犯罪では片付けられない
東京を混乱させ、国家を転覆させるのが目的のテロ行為だったのである
ではそのオウム真理教とはどういう団体だったのか

1980年代、麻原彰晃こと松本智津夫が始めた小さなヨガ教室が出発点である
やがてかなり強引な手法で宗教団体となり、信者を獲得していく
麻原は『我こそが救世主』と主張し、危険な教義を信者に植え付けていった
『ポア』すなわち「人を◯すことが魂の救済になる」という思想がその核心だ
過酷な修行や睡眠不足、薬物によって信者たちの思考は麻痺させられた

善悪の判断がつかなくなり、拉致や◯人、武器製造などいくつもの犯罪に手を染めていったのである
驚くべきは、信者たちの中には東大や慶応出身の医師や科学者といった高学歴者が多かったことだ
強烈なカリスマ性を持つ麻原とエリート集団がタッグを組まなければ、この悲劇は起こらなかっただろう
この事件は国家転覆と同時に、教団が引き起こした逮捕監禁致死事件に対する捜査を妨害する目的もあった
事件の2日後に教団施設への強制捜査が予定されていたためだ
オウムはサリンを70トン製造する計画を持っていた

事件で使用されたのはその一部にすぎない
新聞紙で包まれたビニール袋にサリンを忍ばせ、先の尖った傘の先端で突き破って流出させる手口
気化した成分を浴びた人たちが次々と倒れていった

テレビ画面に映し出される、地下鉄の地上出口の前に横たえられた被害者たち
見たこともないほどたくさんの救急車や消防車の車列
野戦病院のようになった都内医療機関の殺伐とした様子
当時を知っている人間にとって、あの映像は忘れたくても忘れられない光景だ
もしサリンが全量使われていたなら、東京は壊滅していたに違いない
人々を恐怖のどん底に陥れた地下鉄サリン
だが本当に恐ろしいのは、この事件が過去の話ではないことだ
第一に被害者たちはいまも後遺症で苦しめられている事実を知っているだろうか
視覚障害・高次機能障害・倦怠感・PTSDといった症状が、30年経った現在でも続いているのだ
重い障害を負った女性Aさんは事件から25年経った2020年に亡くなった
自ら体が動かせなくなった彼女を、家族が献身的に介護し続け、最期を看取った
被害者本人だけでなくその家族の心にまで大きな影を落としていったのだ
PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した人の中には電車に乗れなくなった人もいる
あの日の光景がフラッシュバックして、パニックに陥ってしまうのだ
当然就労も困難になり、日常生活もままならなくなった
あの日、いつも通りに乗った地下鉄で遭遇した恐ろしい事件
それがこれほど長きにわたって被害者を痛めつけると誰が思っただろう
事件が過去のものではない証拠のもう一つは、信者が増え続けているという事実だ
オウムは事件の翌年、解散命令により消滅した
教祖の麻原は事件の2ヶ月後に山梨・上九一色村の教団施設内で逮捕

23年の時を経て2018年に◯刑が執行された
しかし『アレフ』や『ひかりの輪』などの後継団体は現在も生き残っている
全国15 都道府県に3団体が30施設を構え、平然と宗教活動を続けているのだ

特に『アレフ』は麻原の写真を祭壇におき、絶対的帰依を隠そうともしていない
被害者への賠償ものらりくらりとかわしている
反省や罪への償いなどどこ吹く風だ
公安調査庁によると、2013年から2023年までの10年間で860人以上が新たに入信した
その半数以上が20代以下の若者である
2025年現在も、毎年数十人が加わっていることがわかっている
情報に敏感で、社会問題にも関心が高いZ世代
教団はその特徴を利用し、勧誘を着実に進めている
かつて高学歴な若者が、社会への不満や知的好奇心を麻原に利用されたように
事件当時はバブル崩壊後の混乱した世の中だった
高学歴でも思った仕事につけない就職氷河期に突入
実力があっても切り捨てられる閉塞感が宗教への扉を無防備に開けてしまった
自分を認めてくれる人への忠誠心は犯罪の壁を簡単に乗り越えていったのである
現在は売り手市場だが、賃金が上がらず労働に意味を見いだせない人も多いだろう
行き詰まりを感じている点では当時と今は似た環境にある
あの頃と違うのはデジタルネットワークが発達したことだ
世界中の誰とでも気軽に話せるSNSは、一方で犯罪の温床となっている
今世間を騒がせている闇バイトやトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)

SNSやオンラインゲームのDMを巧みに使い、若者に魔の手を伸ばしている
オウムの後継団体もSNSでの勧誘に熱心だ
事件を知らないZ世代を標的にし、宗教とは関係ない話から徐々に間を詰めていく
あなたのSNSでの発言を彼らは注意深くみている
どこかに付け入る隙はないかと狙っているのだ

発言に対する「いいね」や賞賛の言葉は一度疑ってかかったほうがいい
あなたの承認欲求や心の弱点を見透かされているに違いない
イベントへのお誘いがあったらさらに要注意だ
一見無関係なイベントが、入信の入り口となってしまう
顔の見えない、見ず知らずの相手の発する言葉を絶対に鵜呑みにしてはいけない
疑う心は自分を守る唯一の武器なのだから
今回地下鉄サリンおよびオウム真理教について解説した
あの惨劇を知らない世代の人にはぜひ覚えておいてほしい
2度とあの恐怖を繰り返してはいけないのだ
そして自分の身を守れるのは自分だけだと言うことを
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